不動産業界では多くの国家資格の制度があり、資格取得によってキャリアアップを目指すことが可能です。
本記事では、不動産業界の中でもニーズの高い「三冠資格(トリプルクラウン)」と呼ばれる資格について解説していきます。
「不動産業界で活躍したい」「資格を取って年収アップを目指したい」と考えている人は、取得すべき資格を検討する際にチェックしておくとよいでしょう。
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不動産三冠資格とは?
厳しい法律によって規制されている不動産業界において、専門家として活躍していくためには資格取得が必須です。不動産関連の国家資格は他業界と比較しても多く、専門的な知識の証明や、一定の許可事業を行うためには無くてはならないものとなっています。
不動産系資格の中でも、ニーズが高い以下の資格は「三冠資格(トリプルクラウン)」と呼ばれています。三冠資格は以下の通りです。
- 宅地建物取引士(宅建)
- 管理業務主任者
- マンション管理士
上記の三冠資格はいずれも非常にニーズが高く、不動産業界において取得するメリットが大きいといえます。ただし、資格によって得られる知識や独占業務、取得難易度は待った鵜違うので注意が必要です。
ここからは、それぞれの資格について取得難易度やメリット・デメリットについて詳しく解説をしていきます。
宅地建物取引士(宅建)とは?
三冠資格のひとつである「宅地建物取引士(通称:宅建)」は、不動産業界で最も有名な国家資格のひとつです。宅地建物取引士は不動産取引における専門家として非常に人気が高い国家資格で、毎年20万人が受験します。
不動産取引において「重要事項の説明」「35条書面(重要事項書面)への記名」等の独占業務を持っており、専門家としての責任と重要度の高い資格です。
宅地建物取引業者は事業所ごとに一定数の宅地建物取引士を置かねばならないため、不動産業界において非常にニーズの高い資格といえます。
資格名 | 宅地建物取引士 |
---|---|
資格の概要 | 不動産取引の専門家 毎年約20万人が受験する人気資格 |
資格の種類 | 国家資格 |
資格の更新 | 要更新(5年毎) |
独占業務 | 重要事項の説明 重要事項説明書(35条書面)への記名 契約書(37条書面)への記名 |
受験資格 | 特に無し |
試験形式 | 50問・四肢択一式 (マークシート) |
試験の合格率 | 17.2%(2023年度) |
宅地建物取引士になるためには、年1回の国家試験に合格し、試験合格の都道府県で登録をしたうえで宅地建物取引士証の交付を受ける必要があります。実務経験が2年未満の人が登録を受けるためには、実務講習の修了が必要となるため、試験に合格してもすぐに資格者になれるわけではないので注意しておきましょう。
宅地建物取引士(宅建)の難易度と合格率
不動産業界の中で最も認知度の高い「宅地建物取引士(宅建)」ですが、資格の取得難易度はどれくらいなのでしょうか?
結論としては宅地建物取引士の試験難易度は高いといえます。下表は過去5回分の合格率推移から確認していきましょう。
試験実施年 | 申し込み者数 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 | 合格基準点 ()内は5問免除者 |
---|---|---|---|---|---|
2023年 | 289,096人 | 233,276人 | 40,025人 | 17.2% | 36(31)点 |
2022年 | 283,856人 | 226,048人 | 38,525人 | 17.0% | 36(31)点 |
2021年12月 | 39,814人 | 24,965人 | 3,892人 | 15.6% | 34点 |
2021年10月 | 256,704人 | 209,749人 | 37,579人 | 17.9% | 34(29)点 |
2020年12月 | 55,121人 | 35,258人 | 4,609人 | 13.1% | 36(31)点 |
これを見ると分かるように、、合格率は例年20%以下と低い水準で推移していることが分かります。
宅建の試験は年に1回しか実施されにことに加え、合格科目の免除制度等もないことから、不合格の場合は1年後にイチから挑戦する必要があります。そのため、宅地建物取引士の試験難易度は高いといえるでしょう。
宅地建物取引士(宅建)のメリット
宅地建物取引士を取得するメリットは主に以下の通りです。
宅地建物取引士取得の主なメリット
- 不動産業界への転職に有利
- 独占業務があるので安定している
前述の通り、宅地建物取引士は不動産三冠資格の中でも特に知名度とニーズの高い資格です。そのため、未経験者が不動産業界に転職する場合はもちろんのこと、経験者が不動産業界の中でステップアップしていくためにも有用な資格といえます。
また、不動産取引に必要不可欠な「重要事項の説明」等の独占業務を持っていることから、宅建資格を取得することで不動産業界の中で安定して働けるため、食うに困らなくなるといえるでしょう。
宅地建物取引士(宅建)のデメリット
不動産業界で活躍するなら宅地建物取引士は取得して損が無い資格といえますが、いくつかデメリットも存在します。宅建資格を取得するにあたって理解しておくべきデメリット・注意点は以下の通りです。
宅地建物取引士取得のデメリットや注意点
- 不動産業界以外では活かしづらい
- 資格の更新が必要(5年毎)
宅地建物取引士は不動産業界においては非常にニーズの高い資格ですが、それ以外の業界では活かしづらい資格といえます。そのため、「不動産業界で働くかどうか分からない」と考えている人は、まずは自分自身のキャリア設計を見直したうえで資格取得を検討するのがオススメです。
また、宅建は「5年毎に更新が必要」な資格である点も理解しておく必要があります。不動産業界における法律改正や知識のアップデートを促すために非常に有用ではありますが、「宅建資格を取得したけど使う予定がない」「後進すべき資格が多すぎて対応が難しい」という人は注意しておきましょう。
管理業務主任者とは?
不動産三冠資格のひとつである管理業務主任とは、マンション管理業者が管理組合(マンションの区分所有者で構成)に対して重要事項説明や管理事務報告を行う際に必要な国家資格者です。
2001年に生まれた国家資格ながら、マンション管理におけるニーズの高い独占業務を持ち、一定数の管理組合に対して設置義務があることから、安定して働ける資格といえます。
参照:一般社団法人マンション管理業協会「管理業務主任者とは」
資格名 | 管理業務主任者 |
---|---|
資格の概要 | 管理組合に対する説明・報告を行う資格 管理組合30組合に1名の設置義務 |
資格の種類 | 国家資格 |
独占業務 | 重要事項の説明 重要事項説明書への記名 管理受託契約書への記名 管理組合に対して管理事務に関する内容を報告 |
受験資格 | 誰でも受験可能 |
試験形式 | 50問・四肢択一式 (マークシート) |
試験の合格率 | 21.9%(2023年度) |
「マンション管理」に関わる専門職のため、都心部ほど需要が高いですが、マンションの数が地方都市においてもニーズが高く、就職・転職に有利に働く資格といえます。
管理業務主任者の難易度と合格率
管理業務主任者の資格取得難易度は決して低くはありません。ですが、合格率は20%前後となっており、不動産三冠資格の中では最も取得しやすい資格といえます。
下表は管理業務主任者の合格率推移となります。
試験実施年 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 | 合格基準点 |
---|---|---|---|---|
2023年 | 14,652人 | 3,208人 | 21.9% | 35点 |
2022年 | 16,217人 | 3,065人 | 18.9% | 36点 |
2021年 | 16,538人 | 3,203人 | 19.4% | 35点 |
2020年 | 15,667人 | 3,739人 | 23.9% | 37点 |
2019年 | 15,591人 | 3,617人 | 23.2% | 34点 |
上記を見ると分かるように、管理業務主任者は毎年約1.5万人の受験生が挑戦し、18~23%程度の合格率を推移していることが分かります。
合格のために必要な勉強時間は300時間程と言われており、勉強時間が約500時間必要な宅建やマンション管理士と比較すると取得しやすい資格といえます。ただし、マンション管理適正化法をはじめとした法律知識が求められることから、実務未経験の人には特に、易しい試験ではないので注意しておきましょう。
管理業務主任者のメリット
管理業務主任者を取得するメリットは主に以下の通りです。
管理業務主任者の主なメリット
- 不動産業界(特にマンション管理業)の転職に有利
- 独占業務と設置義務があるので安定している
前述の通り、管理業務主任者はマンション管理業者が管理組合へ重要事項説明等を行う際に必須の国家資格です。そのため、不動産業界の中でもマンション管理業に力を入れている企業への就職・転職に有利になる資格といえます。
管理業務主任者は独占業務を持ってることに加え、管理組合30組合に1名の割合で設置義務があるため、資格を取得して安定して働くことが出来ます。
管理業務主任者は30の管理組合に1名の割合で設置義務
管理業務主任者のデメリット
管理業務主任者を取得する前に知っておくべきデメリットは主に以下の通りです。
管理業務主任者取得のデメリットや注意点
- マンション管理業以外では活かしづらい
- 資格の更新が必要(5年毎)
管理業務主任者の資格も、宅建と同様に不動産業界以外では活かしづらく、特にマンション管理業以外の仕事では活用しづらい点が挙げられます。もしもマンション管理業の仕事にこだわりはなく、「不動産業界で活躍したい」というキャリア設計の場合は、まずは汎用性の比較的高い「宅建資格」を目指すとよいでしょう。
また、管理業務主任者も5年毎に更新が必要な資格のため、有効期間満了までに手続きが必要な点にも注意しておきましょう。
参照:国土交通省「管理業務主任者証の交付を受けるまでの手続きについて」
マンション管理士とは?
不動産三冠資格のひとつである「マンション管理士(通称:マン管)」は、その名の通りマンション管理の専門家である国家資格者のことを指します。
管理業務主任者とは違い、マンションの管理組合の立場から相談に乗り、必要に応じて指導や助言を行うのが役目となります。
資格名 | マンション管理士 |
---|---|
資格の概要 | マンション管理組合の相談に乗り、助言・指導 |
資格の種類 | 国家資格 |
独占業務 | 管理計画の認定基準への適合状況の確認 |
受験資格 | 特に無し |
試験形式 | 50問・四肢択一式 (マークシート) |
試験の合格率 | 10.1%(2023年度) |
マンション管理士の難易度と合格率
マンション管理士の取得難易度は不動産三冠資格の中で最も高く、合格率は10%前後を推移(下表参照)しています。
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
2019年 | 12,021人 | 991人 | 8.2% |
2020年 | 12,198人 | 1,045人 | 8.6% |
2021年 | 12,520人 | 1,238人 | 9.9% |
2022年 | 12,209人 | 1,402人 | 11.5% |
2023年 | 11,158人 | 1,125人 | 10.1% |
参照:公益財団法人マンション管理センター「令和5年度マンション管理士試験の結果について」
マンション管理士の合格に必要な勉強時間は「約500時間」と言われており、社会人として働きつつ独学合格を目指すのは難易度が高い国家試験といえるでしょう。マンション管理に関する専門的知識、法令知識を問われるものが多く、実務未経験者の場合は通信学習などを利用して効率よく学ぶ必要があります。
ちなみに、管理業務主任者の合格者の場合は、試験問題の一部(5問)が免除となるため、やや有利に受験することが可能です。
マンション管理士のメリット
マンション管理士を取得するメリットとして、主に以下の2点が挙げられます。
管理業務主任者の主なメリット
- マンション管理会社への就職・転職に有利
- 収入アップが見込める
マンション管理士はそのマンションの管理・運営に関するプロフェッショナルな知識を活かすことで、マンションの管理会社への就職に有利になる資格です。
また、資格手当を支給している会社であれば、収入アップにつなげることも可能です。
マンション管理士のデメリット
マンション管理士の取得を目指す際に理解しておくべきデメリットは、主に以下の通りです。
マンション管理士取得のデメリットや注意点
- 現状は独占業務のニーズが小さい
- 法定講習の受講が必要(5年毎)
マンション管理士は「宅建」や「管理業務主任者」等の他の三冠資格と同様に、独占業務を持った国家資格です。ただし、その独占業務である「管理計画の認定基準への適合状況の確認(事前確認)」を受けることで、「マンション管理計画認定」を受けやすくなるのですが、これはマンション建築、運営の際に必須のものではありません。
そのため、不動産取引やマンション運営に必須である独占業務を持った他の三冠資格とは違い、マンション管理士の独占業務はニーズは比較的小さいといわざるを得ません。
また、マンション管理士は5年毎に「法定講習」の受講が必要な点もデメリットのひとつといえるでしょう。
不動産四冠資格に加わった賃貸不動産経営管理士とは?
不動産業界の代表的な資格である3冠資格に、2021年に国家資格化された「賃貸不動産経営管理士」が加わり、現在は合わせて「不動産四冠資格」と呼ばれています。
賃貸不動産経営管理士は、社会問題となったサブリースに対して、賃貸住宅管理業務の適正化を目的に国家資格となった資格です。
ここでは、賃貸不動産経営管理士について解説していきます。
資格名 | 賃貸不動産経営管理士 |
---|---|
資格の概要 | 賃賃貸物件の管理やオーナーへのアドバイスが可能 |
資格の種類 | 国家資格 |
独占業務 | 無し |
受験資格 | 誰でも受験可能 |
試験形式 | 50問・四肢択一式 (マークシート) |
試験の合格率 | 27.89%(2023年度) |
賃貸不動産経営管理士の難易度と合格率
賃貸不動産経営管理士の取得難易度は四冠資格の中では最も易しく、合格率は30%前後を推移(下表参照)しています。
受験年度 | 受験者数 | 合格者人数 | 合格率 |
---|---|---|---|
2019年度 | 23,605人 | 8,698人 | 36.85% |
2020年度 | 27,388人 | 8,146人 | 29.74% |
2021年度 | 32,459人 | 10,240人 | 31.55% |
2022年度 | 31,687人 | 8,774人 | 27.69% |
2023年度 | 28,299人 | 7,894人 | 27.89% |
上記を見ると分かるように、賃貸不動産経営管理士の合格率は27~37%を推移しており、必要な勉強時間は100~200時間程度と言われています。
このことから、不動産四冠資格の中では最も取得しやすい資格といえるでしょう。
賃貸不動産経営管理士のメリット
賃貸不動産経営管理士の資格を取得するメリットは以下の通りです。
賃貸不動産経営管理士の主なメリット
- 不動産業界(特に賃貸物件を扱う)への就職・転職に有利
- オーナーとして賃貸物件管理の知識を得られる
賃貸不動産経営管理士の資格を取得することで、一定の要件を満たす賃貸住宅管理業者に設置が義務付けられる「業務管理者」になることが可能です。そのため、賃貸不動産経営管理士があれば、賃貸物件の運営・管理を行う不動産会社への就職に有利となります。また、すでに賃貸物件の管理を行う会社で勤務している場合は、体系的な法律知識を身に付けられるため、実務スキルのレベルアップを図ることが可能です。
また、不動産会社で働いていない場合であっても、賃貸物件のオーナーの場合は物件管理・運営に役立つ知識を得られる点がメリットといえるでしょう。
賃貸不動産経営管理士のデメリット
賃貸不動産経営管理士のデメリットとしては、主に以下の点が挙げられます。
管理業務主任者の主なデメリットや注意点
- 独占業務が無い
賃貸不動産経営管理士は国家資格ではあるものの、独占業務は持っていません。そのため、宅建やマンション管理士などと比較すると「取得しても意味が無い」「役に立たない」と言われることもあります。
ただし、「業務管理者」の要件にも該当していることに加え、賃貸不動産経営管理士は賃貸物件を扱う不動産会社であれば広く活躍できる知識を得られます。
自身の目指す目標やキャリア設計に合わせて、資格取得の有無を検討するとよいでしょう。
不動産業界で資格を取得する意義
不動産業界では住宅の販売やマンションの運営管理等、非常に複雑な法律知識を身に付ける必要があります。
もちろん社内の研修やOJT、実務を通して専門的な知識を身に付けることも可能ですが、不明点が生まれた時に都度確認していると業務に支障をきたす場合も有ります。本記事で紹介した「不動産三冠資格」「不動産四冠資格」は、いずれも不動産業界で活躍する上で必要とされる知識の証明が出来る資格であり、取得の過程で体系的な知識・スキルを得ることが出来ます。
また、本記事で紹介した資格以外にも、「土地家屋調査士」や「不動産鑑定士」等、不動産業界で役立つ資格は他にもいくつかあります。
そのため、「不動産業界で活躍したい」「もっとスキルアップしたい」と考えている人は、現在もとめられているスキルや希望する転職先に応じて、対応する知識を得られる不動産資格の取得を目指すとよいでしょう。
不動産三冠資格(トリプルクラウン)まとめ
不動産業界の中でもニーズの高い以下の資格は「不動産三冠資格」と呼ばれており、取得することで専門的な知識を身につけ、不動産業界で活躍するために役立てることが可能です。
不動産三冠資格(トリプルクラウン)とは
- 宅地建物取引士(宅建)
- 管理業務主任者
- マンション管理士
それぞれ専門や得られる知識が異なるため、自身が活躍を目指したい領域の資格を確認して取得を目指していきましょう!
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