「不動産鑑定士」は、不動産系国家資格であり、不動産価値を評価するプロです。ただし、他の不動産系国家資格と比較すると、世間的な認知度は低いのが現状です。
そのため、「不動産鑑定士ってどんな資格なの?」、「試験の難易度はどれくらいなの?」、「自分にも合格できるの?」などと疑問に思う方もいるようです。
そこで本記事では、不動産鑑定士試験の概要や合格率、おすすめの勉強方法等について解説します。
\ キャリアの悩みは専門家へ相談! /
不動産鑑定士とは?
前述のとおり、不動産鑑定士は「不動産価値を評価するプロ」の国家資格です。
宅地建物取引士(通称:宅建士)や管理業務主任者などと同じ不動産系国家資格であり、試験の難易度を考慮すると、不動産系国家資格の最高峰資格といえます。
また、その試験の難易度から、弁護士、公認会計士と並んで「文系3大国家資格」の一角を担うのが不動産鑑定士です。
なお、令和5年1月1日時点における不動産鑑定士としての登録者は、約8,600人となっており、登録者約44,000人の弁護士、会員数約42,000人の公認会計士と比較しても、希少性の高い存在であることが分かります。
超難関国家資格でありながら希少性の高い不動産鑑定士がどのような仕事をするのか、以下で見ていきます。
不動産鑑定士の仕事内容
不動産鑑定士の仕事は、大きく分けると「鑑定評価業務」と「コンサルティング業務」の2つです。
不動産鑑定士の主な仕事
- 鑑定評価業務
- コンサルティング業務
鑑定評価業務
1つめの「鑑定評価業務」とは、公正な立場から不動産の価値を決め、「不動産鑑定評価書」を作成する仕事です。詳細は後述しますが、この「不動産の鑑定評価」という業務は、不動産鑑定士の独占業務になっています。
なお、鑑定と似た言葉に「査定」があります。いずれも「不動産を評価する」という点では共通していますが、評価基準と法的効力の有無という点で大きく異なります。
「査定」は、不動産会社が独自に評価基準を決めており、その結果に法的な効力がないのに対し、不動産鑑定士が行う「鑑定」は、国が評価基準を決めており、その結果には法的な拘束力があります。
日常生活をしている中であまり馴染みのない「鑑定」ですが、必要となるのは次のような場合です。
- 相続や離婚により親族間での不動産のやり取りが発生した場合
- 不動産を担保にして融資を求める場合
さらに、不動産鑑定士が行う鑑定評価は「公的評価」と「民間評価」に分けることができます。
公的評価は、次表のとおり3つに分けられます。
公的評価の種類 | 内容 |
---|---|
地価公示 | 国土交通省土地艦艇委員会が不動産取引の公平性を保つために毎年土地の価値を評価する。 |
相続税路線価 | 国が相続税を計算するときに基準にする土地の価格で、土地が面している路線ごとに異なるため、路線ごとの価値を評価をする。 |
裁判所の競売 | 不動産所有者が住宅ローンを支払えなくなると、裁判所でオークションにかけられるが、オークションにかけられる物件を調査して、裁判所で公表される資料の作成や最低の入札額を決める。 |
これに対して「民間評価」では、個人や企業の依頼を受けて鑑定評価を行います。
例えば、個人が不動産を担保に出したり相続したりする場合や企業が不動産を証券化する場合に鑑定の依頼を受けることとなります。
なお、「不動産の証券化」とは、企業が所有する不動産の賃料や売却したときの利益を手元に残して、社債や株式を発行することをいいます。株主への影響が大きいため、不動産鑑定が義務づけられているのです。
こうした鑑定評価を行うにあたっては、現地調査が不可欠です。不動産に関する書類や写真だけでは分からなかったことが、この現地調査によって判明することも多く、不動産鑑定評価書の作成するために何度も現地へ赴くこともあります。
「不動産鑑定評価書」を作成するというデスクワークのみならず、フィールドワークも欠かせないのが不動産鑑定士の業務の特徴といえます。
コンサルティング業務
不動産鑑定士の「コンサルティング業務」とは、顧客に対して不動産の活用についてアドバイスをする仕事です。
このコンサルティング業務は、不動産鑑定士でなくとも行うことができます。しかし、不動産鑑定士であることで、専門知識を有していることの担保となり、依頼主からの信用を獲得することができます。
コンサルティング業務の具体例としては、次のようなものが挙げられます。
- 個人のオーナーへ土地や建物の活用や資産運用について助言する
- 企業向けに、所有物件を使った新規事業を企画する
- 不動産投資家の投資判断をサポートする
スケールの大きな仕事ができるのも不動産鑑定士の業務の特徴といえます。
不動産鑑定士の独占業務
不動産系国家資格である宅建士や管理業務主任者と同様に、不動産鑑定士にも独占業務があります。
「不動産の鑑定評価に関する法律」第3条によると、不動産鑑定士は、「不動産の鑑定評価」を行うことができるとされており、これこそが不動産鑑定士の独占業務です。
そして、不動産鑑定の内容と結果を示す「不動産鑑定評価書」を作成することができます。
具体的な業務内容については前述のとおりです。
なお、不動産鑑定士以外の者が「不動産の鑑定評価」を行うと、刑事罰の対象となってしまいます。
不動産鑑定士になるための3つのステップ
不動産鑑定士になるためには、主に以下のステップが必要となります。
- 国家試験に合格
- 実務修習を修了する
- 不動産鑑定士名簿に登録
国家試験に合格する
不動産鑑定士になるためには、まずは、不動産鑑定士試験に合格しなければなりません。難関の国家試験への合格が不動産鑑定士への第一歩となります。
※なお、試験の概要等については後述します。
実務修習を修了する
試験に合格した後は、実務修習を受け、修了しなければ不動産鑑定士になることはできません。
実務修習とは、日本不動産鑑定士協会連合会が主催する、実務的な能力を身につけるための研修制度をいいます。
実務修習を受ける
実務修習を受けるためには、次のいずれかの方法による必要があります。
- 実務修習を指導している不動産鑑定会社に就職する
- 修習指導だけを専門に行っている機関や不動産会社に所属する
「不動産鑑定会社に就職」の場合は、不動産鑑定会社に雇用されることが前提となるため、社会人として働いている場合には、転職しなければならなくなります。
これに対し、「修習指導だけを専門に行っている機関や不動産会社に所属」する方法であれば、転職をせず修習を受けることができます。
実務修習の期間は、1年コースと2年コースに分けられ、いずれかを選択することができます。どちらを選択しても修習の内容は同じで、1年であれば短期集中、2年であれば余裕をもって受けることになります。
実務修習の内容は次のとおりです。
実務修習の種類 | 実務修習の内容 |
---|---|
講義の受講 | eラーニングと確認テストを行う。 ※確認テストに合格することで、受講したという扱いになる。 |
基本演習 | 修習生が一堂に会し、ディスカッションをメインとして、4回に分けて集合研修を行う。 |
実地演習 | 13類型の鑑定評価書を作成する。 |
修了考査に合格する
実務修習の最後には「修了考査」を受ける必要があります。この「修了考査」に合格しなければ、実務修習を受けたことにはなりません。
修了考査の内容は次の2つに分けられます。
- 記述式(択一式と論文式)
- 口述式(鑑定評価書についての諮問)
この修了考査に合格すると、ようやく不動産鑑定士として登録することができるようになります。
不動産鑑定士名簿に登録
不動産鑑定士試験に合格し、実務修習を修了すると、「不動産鑑定士となる資格を有する者」となります。
そして、国土交通省に備える不動産鑑定士名簿に、氏名、生年月日、住所等の登録を受けることで、晴れて不動産鑑定士となることができるのです。
ここまで見てきたとおり、不動産鑑定士試験に合格するだけでは不動産鑑定士となることはできず、実務修習を経て、名簿への登録を受けて初めて、不動産鑑定士となることができるのです。
3つのステップを踏む必要があるため、最短でも2年程度の時間がかかることになります。
不動産鑑定士試験の概要
不動産鑑定士試験の概要は以下のとおりです。
資格 | 不動産鑑定士 |
---|---|
資格の種類 | 国家資格 |
受験資格 | なし ※誰でも受験可能 |
受験手数料 | ・電子申請:12,800円 ・書面申請:13,000円(収入印紙) |
受験地 | 【短答式試験】 北海道札幌市、宮城県仙台市、東京都特別区、新潟県新潟市、愛知県名古屋市、大阪府大阪市、広島県広島市、香川県高松市、福岡県福岡市、沖縄県那覇市 |
【論文式試験】 東京都特別区、大阪府大阪市、福岡県福岡市 | |
試験日 | 【短答式試験】 2024年5月19日(日) |
【論文式試験】 2024年8月3日(土)、4日(日)、5日(月) | |
合格発表日 | 【短答式試験】 2024年6月26日(水) |
【論文式試験】 2024年10月18日(金) |
不動産鑑定士の国家試験は年に1回しか実施されず、短答式と論文式という2種類の試験対策を行う必要があります。そのため、受験をする際には試験勉強のスケジュールを綿密に計画する必要があるでしょう。
不動産鑑定士試験の試験科目
不動産鑑定士試験は例年、5月に「短答式試験」が、8月に「論文式試験」が実施されます。
以下では、それぞれどのような試験なのか詳細を解説していきます。
短答式試験
まずは、5月に実施される「短答式試験」です。
短答式試験で出題されるのは「行政法規」と「鑑定理論」の2科目です。出題形式は、5つの選択肢から適切な肢を選択しマークシートにマークする「5肢択一式」となっています。
「行政法規」では、鑑定士に必要な37個の法律知識(都市計画法や建築基準法など)が問われます。
「鑑定理論」では、国土交通省が定める不動産鑑定評価基準や鑑定に関する留意事項の知識が問われます。
論文式試験
次は、8月に3日間にかけて実施される「論文式試験」です。
論文式試験は、その名のとおり「記述式」の試験です。問われたことに対して、文章で解答する必要があります。
試験科目は「民法」「経済学」「会計学」「鑑定理論(1)」「鑑定理論(2)」「鑑定理論(演習)」の6科目です。
論文式試験の試験日程は次表のとおりです。
午前(10:00~12:00) | 午後(13:30~15:30) | |
---|---|---|
1日目 | 民法 | 経済学 |
2日目 | 会計学 | 鑑定理論(1) |
3日目 | 鑑定理論(2) | 鑑定理論(演習) |
このように、短答式試験と論文式試験に分けて実施されるのが、不動産鑑定士試験の特徴です。
不動産鑑定士の合格基準
不動産鑑定士試験は、「短答式試験」と「論文式試験」に分けて実施されますが、以下ではそれぞれの合格基準について解説します。
短答式試験は、各科目100点の200点満点で、合格基準点は140点前後です。つまり、合格のためには、7割程度の得点が必要となります。
各科目に足切り点がありますが、足切りになる点数が公表されていないため注意が必要です。
なお、短答式試験に合格すると、合格した年も含めて3年間は、短答式試験の免除を受けたうえで論文式試験を受けることができます。
例えば、2024年に短答式試験に合格したとすると、2024年の論文式試験を受けられるのはもちろん、2025年と2026年の短答式試験は免除されたうえで論文式試験を受験することができます。ただし、2026年も不合格になってしまうと、2027年には改めて短答式試験を受ける必要があるのです。
これに対し論文式試験は、各科目100点の600点満点で、合格基準点は360点前後です。つまり、合格のためには、6割程度の得点が必要となります。
短答式試験と同様、論文式試験においても、各科目に足切り点があるため、満遍なく得点することが求められます。
不動産鑑定士の合格率は?
先述のとおり、不動産鑑定士試験は超難関試験の1つです。
まずは短答式試験に合格し、さらに論文式試験に合格しなければならないという試験の形式が、不動産鑑定士試験を難しくしているのです。
以下では、短答式試験と論文式試験のそれぞれの合格率、そして、不動産鑑定士試験の最終的な合格率がどの程度なのか、順番に見ていきます。
不動産鑑定士の短答式試験の合格率と合格ライン
直近10年間の短答式試験の合格率は次表のとおりです。
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 | 合格ライン (200点満点) |
---|---|---|---|---|
2023 | 1,647人 | 553人 | 33.6% | 132.5点 |
2022 | 1,726人 | 626人 | 36.3% | 150点 |
2021 | 1,709人 | 621人 | 36.3% | 140点 |
2020 | 1,415人 | 468人 | 33.1% | 132.5点 |
2019 | 1,767人 | 573人 | 32.4% | 140点 |
2018 | 1,751人 | 584人 | 33.4% | 137.5点 |
2017 | 1,613人 | 524人 | 32.5% | 135点 |
2016 | 1,568人 | 511人 | 32.6% | 127.5点 |
2015 | 1,473人 | 451人 | 30.6% | 140点 |
2014 | 1,527人 | 461人 | 30.2% | ※ |
参照:国土交通省「不動産鑑定士試験 試験結果」
上表を見ると分かるように、短答式試験合格率は30%~37%の間を推移していますが、合格点は127.5点~150点まで開きがあることが分かります。特に2022年度の試験の合格点は「150点」となっており、合格基準の目安である140点を10点も上振れていることが分かります。
不動産鑑定士の論文式試験の合格率と合格ライン
直近10年間の論文式試験の合格率は次表のとおりです。
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 | 合格ライン (600点満点) |
---|---|---|---|---|
2023 | 885人 | 146人 | 16.5% | 369点 |
2022 | 871人 | 143人 | 16.4% | 369点 |
2021 | 809人 | 135人 | 16.7% | 380点 |
2020 | 764人 | 135人 | 17.7% | 380点 |
2019 | 810人 | 121人 | 14.9% | 353点 |
2018 | 789人 | 117人 | 14.8% | 376点 |
2017 | 733人 | 106人 | 14.5% | 347点 |
2016 | 708人 | 103人 | 14.5% | 348点 |
2015 | 706人 | 100人 | 14.2% | 378点 |
2014 | 745人 | 84人 | 11.3% | ※ |
参照:国土交通省「不動産鑑定士試験 試験結果」
上表を見ると、論文式試験の合格率は短答式に比べると非常に低く。11%~18%の間を推移していることが分かります。このことから、論文式試験が不動産鑑定士合格のための鬼門であることが分かります。
不動産鑑定士の最終合格率は約4~5%と非常に低い
ここまで、短答式試験と論文式試験のそれぞれの合格率を見てきました。
ここ10年間の短答式試験の合格率は「30%~37%、論文式試験の合格率が「11%~18%」となっており、最終合格率はおよそ「4~5%」となります。
同じ不動産系国家資格である宅建士の合格率が15〜17%、管理業務主任者の合格率が18〜23%、マンション管理士の合格率が8〜11%であることと比較すると、不動産系国家資格の最高峰といわれるのも頷けます。
不動産鑑定士の難易度は高い
最終合格率からも分かるとおり、不動産鑑定士試験は非常に難易度の高い試験となっています。
以下では、不動産鑑定士試験の合格に必要な勉強時間を確認したうえで、他の資格試験との勉強時間を比較してみます。
不動産鑑定士合格に必要な勉強時間は最低でも2,000時間!
不動産鑑定士試験に最終合格するために必要な勉強時間は、一般的に「2,000~4,000時間」といわれています。
1年間に2,000時間の勉強時間を確保しようとすると、1日あたり5時間以上の勉強が必要となります。社会人の場合、仕事以外の時間のほとんどすべてを勉強に充てなければ、合格するのが難しい試験だといえます。
次表は、他の難関試験の合格に必要な勉強時間です。
資格 | 必要な目安勉強時間 |
---|---|
不動産鑑定士 | 2,000~4,000時間 |
司法予備試験 | 3,000~8,000時間 |
公認会計士 | 2,500~3,500時間 |
税理士 | 3,000~4,000時間 |
マンション管理士 | 約500時間 |
宅建士 | 約400時間 |
管理業務主任者 | 約300時間 |
上表を参考に考えると、不動産鑑定士は司法予備試験よりも少ない勉強時間で合格は可能といえますが、公認会計士試験や税理士試験と同程度、他の不動産系国家資格と比較すると4~10倍程度の勉強時間を確保する必要があることが分かります。
不動産鑑定士の難易度が高い理由
ここまでの解説を踏まえると、不動産鑑定士試験は非常に難易度の高い試験であることがお分かりいただけたと思います。そのうえで、なぜ難易度が高いのか、その理由を以下で解説していきます。
不動産鑑定士の難易度が高い理由は主に以下の4つが挙げられます。
- 各科目に足切り点が存在する
- 出題範囲が広い
- 論文式試験がある
- 実務修習を修了する必要がある
不動産鑑定士の難易度が高い理由①:各科目に足切り点が存在する
理由の1つめは「各科目に足切り点が存在する」ことです。
短答式試験が2科目、論文式試験が6科目の計8科目で構成される不動産鑑定士試験ですが、その科目1つ1つに足切り点が存在します。つまり、各科目に取らなければならない最低点数があり、その点数を1点でも超えられなければ、それだけで不合格となってしまうのです。
なお、各科目の足切り点について、具体的な点数が公表されていないことにも注意が必要です。
短答式試験の場合は約7割、論文式試験の場合は約6割が合格の目安とされていますが、科目ごとに何点以上の得点が必要なのかがはっきりとしない以上、苦手科目を作ることができない点も、不動産鑑定士の難易度が高い理由であるといえます。
不動産鑑定士の難易度が高い理由②:出題範囲が広い
理由の2つめは「出題範囲が広い」ことです。
短答式試験の場合は、「行政法規」と「鑑定理論」の2科目が出題されます。
このうち「行政法規」においては、都市計画法や建築基準法など37もの法令が出題範囲となっており、不動産関連法令を幅広く学習する必要があります。
また「鑑定理論」においては、「不動産鑑定評価基準」及び「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」が出題範囲となっており、かなり専門性の高い内容を学習する必要があります。
また、論文式試験の場合は、計6科目から出題されます。
不動産鑑定士試験の主要科目である「鑑定理論」のほか、民法、経済学、会計学が出題範囲となっています。法律学、経済学、会計学は、それぞれが独立した学問であるにもかかわらず、その全てを広く深く学習することが求められるのです。
このように、試験範囲が膨大であることも不動産鑑定士試験の難易度が高い理由であるといえます。
不動産鑑定士の難易度が高い理由③:論文式試験がある
理由の3つめは「論文式試験がある」ことです。
マークシート形式の試験だけであれば、知識を暗記していくことで、問題文の正誤を判断することができますが、記述形式の試験となると、単に知識を暗記していくだけでは歯が立ちません。
正しい知識を暗記したうえで、問題文で聞かれたことに対して、覚えた知識を当てはめていく必要があり、これをするためには、書いて答える練習を何度も何度も繰り返すという地道な努力が必要となります。
さらに、鑑定理論(演習)においては、電卓を使った計算も求められます。単なる記述形式のみならず、計算により不動産の価値を評価することも試験の内容となっているため、やはり論文式試験の存在が不動産鑑定士試験の難易度を高くしているといえます。
不動産鑑定士の難易度が高い理由④:実務修習を修了する必要がある
不動産鑑定士の試験難易度が高い理由の4つめは「実務修習を修了する必要がある」ことです。
先述のとおり、不動産鑑定士試験を突破したとしても、不動産鑑定士になることはできず、実務修習を修了しなければなりません。
より実務に即した研修を受け、研修の最後に実施される修了考査に合格することで、不動産鑑定士としての登録を受けることができるのです。
不動産鑑定士となるために、鑑定業者へ転職する場合には、仕事=実務修習となりますが、そうではなく、本業をしながら実務修習を受ける場合には、試験勉強と同様に、仕事以外の時間に講義を受講したり、不動産鑑定評価書を作成したりしながら、修了考査の合格を目指していくことになります。
このように、不動産鑑定士試験の後に実務修習が控えていることも、不動産鑑定士のハードルが高い理由の一つとなっています。
不動産鑑定士の合格を目指すためのおすすめ勉強方法
資格試験に合格するためには、大きく分けて、次の3つの方法があります。
- 独学で勉強する
- 通信学習を利用する
- 予備校に通って勉強する
以下では、不動産鑑定士試験に合格するための3つの勉強方法のメリットとデメリットを解説します。ただし、本気で合格を目指すのであれば、「通信学習」か「予備校」の利用は必須といえるでしょう。
独学で勉強する
1つめの方法は「独学で勉強する」ことです。
資格予備校が提供する講座は利用せず、市販の参考書や問題集をメイン教材としながら、試験合格に向けて勉強していく方法です。
独学で勉強することのメリットとデメリットは次のとおりです。
メリット | デメリット |
---|---|
費用が安く抑えられる | ひとりで勉強しなければならない |
自分のペースで勉強できる | 勉強のペース配分が難しい |
不動産鑑定士以外の不動産系国家資格であれば、独学での合格も十分に可能ですが、不動産鑑定士試験については、独学での最終合格はかなり難しいと言わざるを得ません。
短答式試験の場合は、試験慣れしているような人であれば独学でも十分に合格が可能です。しかし、論文式試験の場合は、記述形式に特化した対策をする必要があることから、独学での合格は現実的ではありません。
何年かかってでも合格すればよい、ということであれば独学も選択肢になり得ますが、少しでも早く試験に合格し、不動産鑑定士としての活躍を考えているのであれば、独学ではなく、通信学習や予備校の利用を検討しましょう。
通信学習を利用する
2つめの方法は「通信学習を利用する」ことです。
2024年4月現在、不動産鑑定士試験の対策講座を開講している主な資格予備校は次の3つです。
不動産鑑定士試験の対策講座の開講スクール
- TAC
- LEC
- アガルート
このうち、アガルートについては通信学習に特化していますが、TACとLECについては通学がメインでありながら、収録した講義をWebで閲覧できるコースも準備されています。
なお、TACとLECについては、初学者を対象としたフルパッケージの講座が準備されていますが、アガルートについては、短答式試験合格者を対象とした論文式試験対策の講座しかない点には注意が必要です。
通信学習を利用する場合のメリット・デメリットは次のとおりです。
メリット | デメリット |
---|---|
時間的・場所的な拘束がない | 費用がかかる |
スキマ時間を有効活用できる | モチベーション維持が難しい |
通信学習のメリットは、時間的・場所的な拘束がなく、スキマ時間を有効活用できることです。忙しい社会人受験生にとっては、最も有効な手段であるといえます。
ただ、独学と比較すると費用はかかり、最安値であるアガルートの講座でも20万円以上となっています。
また、通信学習の場合、順番に講義を視聴していくなど、自分で勉強を進めていく必要があり、特に長期戦となる不動産鑑定士試験においては、モチベーション維持が大きな課題となってきます。
予備校に通って勉強する
3つめの方法は「予備校に通って勉強する」ことです。
前述のとおり、2024年4月時点で、通学形式で不動産鑑定士試験対策の講座を開講している主なスクールとして、TACとLECが挙げられます。
いずれも、不動産鑑定士試験の学習を一からスタートする人を対象としたコースがあるのが魅力です。
そんな予備校を利用する場合のメリット・デメリットは次のとおりです。
メリット | デメリット |
---|---|
プロの講師から直接指導を受けられる | 費用がかかる |
モチベーションが維持しやすい | 時間的・場所的に拘束される |
予備校を利用する最大のメリットは、受験対策のプロである講師から、直接指導を受けられることです。合格のために、何を、どれだけ、どのように勉強すればよいのか、直接教えてもらうことができます。そのため、試験までモチベーションが維持しやすいこともメリットの一つです。
これに対し、最大のデメリットは、費用がかかることです。TACとLECには、それぞれ複数のコースがありますが、初学者が論文式試験に合格することを想定すると、約50万円の費用がかかります。
また、教室に通って講義を受ける必要があるため、時間的・場所的に拘束されることになります。そのため、忙しい社会人にとってネックになるといえます。
不動産鑑定士の資格取得メリット
資格取得難易度が非常に高い不動産鑑定士ですが、資格を取得するメリットはどんなものがあるのでしょうか?
- 独立開業できる
- 就職・転職に有利
- 高年収が見込める
上記について、詳しく解説していきます。
独立開業できる
不動産鑑定士は、独立開業ができる資格です。不動産に関する幅広い知識を武器に、自分自身の力で顧客を開拓していくことができます。
また、「公的評価」といった公務による安定収入を得ることができるのも、不動産鑑定士ならではの魅力です。独立開業というと、収入の不安定さが拭いきれませんが、毎年、公務による安定した収入があると、独立開業の際の安心材料となります。
就職・転職に有利
不動産鑑定士の資格があると、不動産鑑定業者への就職・転職はもちろん、ディベロッパーや金融機関、コンサルティング会社への就職・転職にも有利に働きます。
不動産の鑑定評価を行うのは、不動産鑑定業者だけではありません。ディベロッパーや金融機関には鑑定評価を取り扱う部署がある場合があり、そうした部署への就職・転職にあたっては、不動産鑑定士の資格が有利に働きます。
また、不動産コンサルティング会社に就職・転職する際にも、不動産鑑定士の資格は有効といえます。
高年収が見込める
日本人の平均給与額は、男性で563万円、女性で314万円(参照:国税庁「令和4年分 民間給与実態統計調査」)ですが、不動産鑑定士の給与額(所定内給与と賞与等を合わせた額)は約750万円(参照:e-Stat「賃金構造基本統計調査」)となっています。
もちろん、鑑定業者や地域によって給与体系は異なるため、一概には言えませんが、不動産鑑定士になれば、平均給与額よりも高い年収が見込めます。
不動産鑑定士資格取得の注意点
以下では、不動産鑑定士の資格を取得するにあたっての注意点について解説します。
不動産鑑定士となるには時間がかかる
先述のとおり、不動産鑑定士となるためには、試験に合格し、実務修習を修了したうえで、登録を受ける必要があります。
第一のステップである不動産鑑定士試験に合格するためには、2,000時間以上の勉強時間を確保しなければならず、社会人の場合には、仕事以外の時間を勉強に充てる必要があるといえます。つまり、試験に合格するまでは、趣味や娯楽などのプライベート時間はほとんどないと言っても過言ではありません。
そのうえで、試験に合格したとしても、1年または2年間の実務修習を受け、修了考査に合格しなければなりません。
これから不動産鑑定士を目指す場合は、試験勉強を開始してから不動産鑑定士としての登録を受けるまでに最短でも2年程度の時間がかかることを考慮したうえで、覚悟を持って試験勉強を開始するようにしましょう。
年齢によっては、転職が難しい場合もある
不動産鑑定士資格があったとしても、必ず転職できるわけではありません。
大手といわれる不動産鑑定業者への転職は、40代を過ぎると難しいとされています。つまり、30代までに不動産鑑定士試験に合格していなければ、大手への転職は難しくなってしまいます。
ただ、先述のとおり、不動産鑑定士は独立開業ができる資格であり、雇われて働くという働き方に囚われることはありません。
不動産鑑定士としてどのように社会に貢献したいのかを考えたうえで、現在の自身の年齢も加味して、不動産鑑定士を目指すようにしましょう。
地域のコミュニティに所属する必要がある
各士業は、地域に根差した存在です。不動産鑑定士も例外ではなく、各都道府県の不動産鑑定士協会に所属する必要があります。
さらに、独立開業し、公的評価の業務を受けようとする場合には、その地域のコミュニティに所属し、ときには地域のイベント等に参加しなければなりません。
鑑定評価やコンサルティングといった本業以外にも、コミュニティに所属することによって生じる事務等があることも、あらかじめ理解しておくようにしましょう。
不動産鑑定士の難易度・合格率まとめ
この記事では、不動産鑑定士の仕事内容や試験の概要、資格を取得することのメリットや注意点について解説してきました。
不動産鑑定士になるためのハードルはかなり高いですが、そのハードルを超えた先には、大きな可能性が広がっています。
不動産鑑定士としての活躍を考えている人は、資格予備校を活用しながら、まずは不動産鑑定士試験の突破に向けて一歩踏み出してみましょう。
\ キャリアの悩みは専門家へ相談! /