愛玩動物看護師になるには？難易度や国家資格の取得方法を解説

2022年5月1日に、国家資格として新たに登場した「愛玩動物看護師」が誕生しました。

これから動物看護師を目指す人はもちろん、現職で活躍している人もスキルアップのために資格取得を検討している人も多いのではないでしょうか。

国家試験に挑戦しようと検討している人の中には、このような疑問を持っている人が多いようです。

そこで今回は、愛玩動物看護師の難易度や受験資格別の取得方法を解説しますので、資格取得を検討している方は是非ご確認ください。

愛玩動物看護師とは？

愛玩動物看護師とは、その名の通り犬や猫、鳥など愛玩動物と指定されているペットの看護や世話をする職業のことです。

業務内容は、以下のように多岐にわたります。

愛玩動物看護師は、主に獣医師のサポーターとして診察をスムーズに回していく役割があります。

飼い主とのコミュニケーションも重要になり、ペットとの暮らしを快適にするためのしつけのアドバイスや問題行動に対する助言も行います。

また、活躍する場所は動物病院だけではありません。

専門的な知識を活かし、しつけ教室での適正飼育の指導やペットショップでの食事管理の相談が行えるため、さまざまな場所での就職が可能です。

人とペットとの繋がりが強くなった現代では、非常にニーズが高い職業といえるでしょう。

参照：環境省自然環境局「愛玩動物看護師をめざす方へ（資格・試験情報）」

2023年に国家資格化

2022年5月1日に愛玩動物看護師法が施行され、新たな国家資格として誕生しました。

これまでは未経験者や資格を持っていない人でも動物看護師と名乗れていました。しかし、同法の施行以降は愛玩動物看護師の資格を保有していないと、動物看護師やこれらに似ている名称の使用が禁止となったのです。

愛玩動物看護師が誕生するまでの流れは以下の通りです。

国家資格化の背景にはどのような目的があったのか、次の章で解説します。

愛玩動物看護師の国家資格化の背景

国家資格化された理由は、ペットのニーズとともに高まった獣医師への負担を軽減するためです。

日本における犬猫の飼育頭数は大きく増加し、1,900万頭にまでなりました。これは国内における15歳未満の人口を上回る数となっています。

現代ではペットを家族の一員として強い繋がりを感じる人が多くなり、それに伴って、愛玩動物に対する医療技術の向上や多様化が求められるようになります。

そして、動物病院の利用者が増えるとともに獣医師への負担が膨れ上がることに懸念を感じたため、専門的なスキルを持った動物看護師の徹底的なサポートを求めるようになったのです。

獣医師しかできなかった業務を動物看護師も行えるようになることで、円滑な診療が期待されました。

また、ペットを飼育する中で起こり得るトラブルや日常生活でのトラブルを防ぐため、飼い主が健康管理やしつけを適切に行う必要があると考えられました。

人間と同じレベルの医療提供や獣医師の負担を軽減すること、適正飼育のアドバイスで飼い主とペットの暮らしを守ること。

これらの目的のため、専門的な知識と技術を持った愛玩動物看護師という国家資格が誕生しました。

参照：農林水産省「愛玩動物看護師法の概要」

愛玩動物看護師の独占業務

愛玩動物看護師は、独占業務として「診療の補助」を持っており、獣医師の指示の下で以下の業務を行うことが可能です。

衛生上の危険性が低いこれらの作業は、獣医の指示のもと行うことが可能です。

病気の診断や手術、X線検査など、責任が非常に大きくリスクが高い重要な医療行為は変わらず行えませんが、獣医師しかできなかった業務の一部を担うことで、より多くのペットたちの診察や治療ができるようになりました。

このように、愛玩動物看護師は獣医師の右腕となるような本格的なサポートが可能です。

参照：農林水産省「新しい国家資格『愛玩動物看護師』が出来ました」

愛玩動物看護師と動物看護師の違い

これまでの動物看護師という職業は、無資格未経験でも問題ありませんでした。

動物看護を学ぶ大学や専門学校に通った場合でも、民間資格である「認定動物看護師」の取得が主流でした。

しかし法律が変わり愛玩動物看護師が国家資格となった今では、これまで行ってきた動物看護師の業務とは大きな違いが生まれることになります。

両者の違いは、獣医師限定であった医療行為の一部を行えるか否かという点です。

前述した愛玩動物看護師の独占業務は、国家資格を持たないスタッフでは実施することが出来ず、医療行為を行えないため、器具の消毒や滅菌、動物たちの介護や世話などといった業務がメインに行ってきました。

一方で愛玩動物看護師は、これまでの業務に加えて「診療の補助」として採血やカテーテルにより採尿などの業務が可能になりました。

また、国家資格を取得することで業務の幅が広がるだけではなく、飼い主からの信頼も厚くなるといえるでしょう。

国家資格である愛玩動物看護師は確かな地位が確立されているため、指導や助言に対して信頼・信用が生まれやすいといえるでしょう。

愛玩動物看護師資格の取得方法

国家資格である愛玩動物看護師資格は、誰でも受験できるわけではありません。

2027年までは特例措置が設けられており、受験資格は3つに分けられるうえ、それぞれ取得方法が異なります。

詳しく解説するので、自分がどの受験資格に当てはまるか確認しましょう。

愛玩動物看護師の受験資格

愛玩動物看護師の受験資格は、国が定めた以下の条件を満たした人に与えられます。

愛玩動物看護師を教育する学校で特定のカリキュラムを修了し、必要なスキルを習得した場合に受験資格が得られます。

これらの条件を満たしている場合を「通常ルート」と呼びます。

2027年4月末までは受験資格の特例措置有り

国家資格化された令和4年5月1日から令和9年4月30日までの5年間は、既卒者や在学者、現任者のために特例措置が設けられています。

これより、すでに動物看護師を養成する学校を卒業している人や、実務経験を一定期間積んできた人も条件を満たせば受験資格を得られることになりました。

特例措置の対象者や条件は以下の通りです。

受験資格	対象者	受験条件
既卒・在学者ルート	法律施行日前に主務大臣が指定する大学や動物看護師養成所に入学し、指定の科目をおさめた者 法律施行日前に主務大臣が指定する大学や動物看護師養成所を卒業した者	講習会への参加
現任者ルート	動物看護師の実務経験が5年以上ある人	講習会への参加 予備試験に合格

今回の特別措置がないと、これまで長年活躍してきた動物看護師や、一定のスキルを習得している卒業生などが受験資格を得るために学校に通い直すことになります。その場合、獣医師を支える動物看護師が少なくなり、医療現場がひっ迫する恐れがあるためこのような措置が設けられました。

しかし、特別措置の対象者は、いきなり国家試験を受けられるわけではありません。

表に記載の条件を満たしたのち、受験資格が得られますが、いずれも国が指定した愛玩動物看護師の講習会に参加が必要です。

講習会の時間は受験資格により変わりますが16～30時間となっており、オンライン上で数日かけて受講することになります。

また、現任者の場合は予備試験に合格することで、国家試験の受験資格が与えられます。

【受験資格別】資格取得の流れ

資格取得までの流れを、受験資格別に解説します。先ほど解説した受験資格によって、取得までの工程は異なります。

特に、特例措置の対象に当てはまる方は通常ルートよりプロセスが多いため、間違えないようにこのタイミングで確認しておきましょう。

なお、いずれも動物看護師統一機構（※）に登録し、免許証を受け取る必要があります。

※動物看護職の標準化や獣医療の体制を整えることを目的に活動している機関

通常ルート

通常ルートの方は以下のような流れで資格を取得します。

通常ルートは、獣医師資格取得と同じ流れをたどることになります。

カリキュラムを修了し無事卒業すれば受験資格が得られるため、一番効率よく資格を取得できる方法といえるでしょう。

既卒・在学者にも現任者にも該当しない人は、通常ルートで受験が必要です。

既卒・在学者ルート（特例措置）

既卒・在学者ルートの方は、通常ルートに講習会が追加されます。

講習会の時間は、認定動物看護師資格の有無によって変わります。

所持していれば16時間、所持していなければ26時間の受講になります。

在学中であれば講師に検定対策を行ってもらえるため、正しい知識が身に付きやすいでしょう。

現任者ルート（特例措置）

現任者ルートの方は、通常ルートに講習会と予備試験が追加されます。

講習会の時間は、認定動物看護師資格の有無や動物看護学校の卒業歴によって変わります。

さらに予備試験の受験が必須になり、合格しなければ受験資格が得られません。

現役で動物看護師として働いていれば仕事をこなしながら講習会を受け、予備試験に合格する必要があるため、3つの対象者の中で取得までのハードルが一番高いといえます。

愛玩動物看護師の難易度

公表されている試験合格率を見ると、愛玩動物看護師の難易度は低く、比較的簡単に取得可能な国家資格といえます。

ただし、誰でも受験できるわけではないので、受験資格を得るために必要な時間や学費も踏まえて資格取得をするかどうかを決めるとよいでしょう。

愛玩動物看護師の合格率推移

一般財団法人 動物看護師統一認定機構が公表している愛玩動物看護師試験の合格率は以下の通りです。

試験回	受験者数	合格者数	合格率
第一回予備試験	9,841人	9,793人	99.5%
第一回国家試験（令和5年2月）	20,798人	18,481人	88.9％
第二回予備試験（令和5年10月）	2,403人	2,364人	98.4％

新しい国家資格であるため実施回数は少ないですが、国家試験は88.9％、予備試験は99.5％と非常に高い合格率であることがわかります。

過去問が無く試験対策が難しい状況であっても、第一回試験の合格率が88.9％となっています。

そのため、試験勉強を徹底すれば受かる可能性が十分高い資格であると考えられるでしょう。

さらに、動物看護師統一認定機構のHPでは、これまでの全試験の問題と回答が公開されているため、これらを参考に試験対策を行えば、高い確率で合格できるといえるでしょう。

参照：一般財団法人 動物看護師統一認定機構「国家試験試験問題・正答および試験結果」

愛玩動物看護師の試験概要

愛玩動物看護師の国家試験と予備試験についての概要を表にまとめました。

合格基準や問題数にちがいがあるため、それぞれしっかり把握して試験に臨みましょう。

なお、出題範囲は国家試験と予備試験ともに同じ24科目です。

項目	予備試験（現任者ルートのみ）	国家試験
受験料	14,000円	27,200円
問題数	100～120問（目安）	200～240問（目安）
合格基準	全体正答率：60％以上	必須問題（※）の正答率：70％ その他の問題の正答率：60%以上
出題方式	マークシート方式
出題範囲	①基礎動物学 ②基礎動物看護学 ③臨床動物看護学 ④愛護・適性飼養学 ※実習を除いた履修すべき全24科目
試験会場	北海道、宮城県、東京都、愛知県、大阪府、広島県、福岡県（全国7ヵ所）

参照：環境省「愛玩動物看護師法の施行に向けた検討状況について」

愛玩動物看護師の国家資格取得メリット

愛玩動物看護師の国家資格を取得することで得られるメリットは、大きく分けて2つ挙げられます。

これらの資格取得メリットについて、詳しく解説していきます。

業務の幅が広がる

愛玩動物看護師の資格を取得すると、これまでの業務に付随して独占業務ができるようになるため、動物病院で行える仕事の幅が広がります。

愛玩動物看護師の国家資格誕生によって、これまでは獣医師しかできなかった採血や投薬、マイクロチップの装着といった一部の医療行為ができるようになりました。

以前は安全に診察できるよう動物を押さえたり、医療器具の準備や消毒といった業務がメインでしたが、国家資格となったことでより深く踏み込んだ補助業務が可能です。

また、飼育や栄養管理に関する知識も身に付くため、しつけや食事について専門的な立場からアドバイスができるようになります。

就職や転職活動に有利

愛玩動物看護師は独占業務を持つ国家資格のため、就職・転職に非常に有利になります。

また、専門的なスキルを持った愛玩動物看護師がいることは、動物病院の信頼度の向上にも繋がるため、就職時にも優遇される可能性も高いでしょう。

病気の知識以外にも飼育や栄養管理についても知見があるため、しつけ教室での指導やペットショップでの食事のアドバイスなども可能です。

そのため、動物看護師以外の仕事に興味を持ったときでも、ペット関連職種であればスムーズな転職に繋げることが可能になるでしょう。

愛玩動物看護師まとめ

愛玩動物看護師は国家資格の中でも、比較的取得しやすい資格といえるでしょう。

ペット文化が高まっている日本では、非常にニーズが高く就職や転職活動にも有利になります。

これまでより踏み込んだ医療行為ができるため、動物たちの命を救いたいと願う動物看護師にとって、さらにやりがいを感じられる職業になりました。

既卒・在学者や現任者に当たる方は、特別措置が設けられている今が取得のチャンスです。

2027年4月30日以降は、学校に通わないと受験資格を得られなくなるため要注意です。受験するか迷われている方は、この機会にぜひ挑戦してみるとよいでしょう。